支払いサイトとは?一般的な長さや考え方を紹介
融資などを受ける際に「支払いサイト」という概念を理解する必要があります。
サイトと聞くと、WEBサイトをイメージする人もいらっしゃるかもしれませんが、今回紹介する「支払いサイト」とは異なるものです。
あまり聞きなれないこの「支払いサイト」を理解していただき、経営に際して今の取引で良いのか考えるきっかけにしていただければと存じます。
支払いサイトの長さや考え方などを今回説明していきます。
支払いサイトとは
まず「支払いサイト」の意味について、確認しておきましょう。
支払いサイトとは、ある会社における売掛金の締め日から実際に売掛先から入金されるまで、言い換えると、請求書を発行してから振り込まれるまでの期間を指します。
支払いサイトの「サイト」とは英吾「sight」(視野、見解)をカタカナにしたものです。冒頭に挙げたWEBサイトなどのサイトは「site」(敷地)であり、同じサイトでも違う英語であることに注意してください。
なぜ「sight」が売掛先からの入金期間という意味になるのでしょうか? サイトについて、「視野」を「見える範囲」という意味に解釈します。
そして、「範囲見えてが確認できる」→「締め日から決済期間までの確認できる猶予」と解釈したものだと言われています。
金融用語として、あまり意味を考えないで「支払いサイト」と使いますが、実はこのような語源なのです。
ただし、ここは、あまり深く考えずに支払いサイトを「締め日から振り込まれる期間」と解釈していただければ問題ありません。
支払いサイトは、売掛金が発生してから、実際に自分の口座へ入金される日まで、だけではなく、売掛金を現金で支払いがあるまでの期間も含みます。
つまり、ツケ払いを現金で支払っていてもしていても有効な売掛金になります。その場合、ファクタリングの方法は限定されます。
末日締め、翌月末日払いの支払いサイトは「30日」、末日締め、翌々月末締め払いの支払いサイトは「60日」です。31日の月、あるいは2月は28日or29日ですが、30日とみなします。
支払いサイトは、売上を計上してから実際に入金されるまでの期間であり、支払いサイトの期間は「売上」として資産計上していますが、キャッシュ(自己資本)としては計上されない状況です。
この支払いサイトの期間中に、つまり売上として計上しているが現金化、資金化していない状況で、買掛金は必要な支出があると、現金、預金がショートして支払えなくなることがあります。この場合、「黒字倒産」の原因になります。
黒字倒産が起きるのは、売掛金の支払いサイト中に現金、預金がなく、支払い義務のある状況に陥り、そのためのキャッシュがないことで資金がショートして起きる現象です。売上がある=黒字なのに支払いができなくなり、不渡りを起こしてしまいます。
日本の商慣習上の一般的な売掛金の支払いサイトは、30日(末日締め翌月末払い)、次いで60日(末日締め翌々月末払い)が多いと言われています。支払いサイト60日を越える掛取引は、かなりイレギュラーなものとご認識ください。
支払いサイト60日を越えるモノについては後述しますが、建設業やIT業、あるいは運送業など長くならざるを得ない業種もあります。
一般的な支払いサイトの長さ
一般的な支払いサイトの長さについて解説します。
日本の商慣習上、支払いサイト60日を超えるものはあまりありません。多くの業種は支払いサイトが比較的短くなっています。
月末締め・翌月末払い
支払いサイトは30日です。
末日締め、翌月末日払い、つまり、7月31日に7月分の売上についてまとめて、それを7月31日夜、あるいは8月最初の営業日までに請求書にまとめて、売掛先に提出します。
それを受けて売掛先は8月中に資金を用意して、8月31日に支払います。現在、土日祝日でもほとんどの金融機関で即時振込、即時入金できますが、個人でやっている会社以外は、31日が土日の場合、その前の平日、営業日に振り込まれることが多いです。その場合、支払いサイトは29日、あるいは28日になります。
支払いサイトが短い分には、債権者にとってリスクはないはずです。
なお、PayPayなどキャッシュレス決済の場合、「振込依頼」をかけると翌日入金など、サイトが30日よりも短くできます。
月末締め・翌々月末払い
支払いサイトが60日のケースです。7月31日締めで請求書を出した場合、9月30日(までに)入金となります。
実は支払いサイト60日は2024年3月31日までに、手形取引をしている「下請法適用対象事業者」について、60日以下(60日はOK)にしなければならない義務が課されます(60日ルール)。
下請け事業者の生活を守るため、また優越的地位の濫用を防ぐため、支払いサイトを60日以下にすることで速やかな支払いを求めることになります。
親事業者(発注者)は物品等を受領した日(やサービス提供を受けた日(から起算して60日以内に定めた支払期日までに下請代金を全額支払わないと下請法違反になります。
特段の事情がない限り手形取引でも、請求書→振込でも支払いサイト60日が1つの目安になります。
90~120日サイト(手形利用)
上記のように手形取引をしている場合、2024年4月以降、支払いサイト60日超は認められなくなります。手形取引で多いのがサイト120日(4か月)というものですが、それでは請負事業者の立場が悪くなってしまいます。
実は昭和41年の通達「手形のサイト短縮について」以来、過去50年以上にわたり、手形の支払いサイトは「繊維業については 90 日以内、その他の業種については 120 日以内」であると言われてきました。しかしそれが現状に合わなくなってきたので、今回の見直しになりました。
なお90日~120日サイトでの非手形取引の場合、この支払いサイトでも問題ありませんが、債権者にとっては大きなリスクになります。また下請法適用事業者が発注者の場合「60日ルール」の適用となり、支払いサイトは最大でも60日になります。
つまり、支払いサイト90日~120日というのは「非手形取引」で「下請法適用非対象事業者」の場合に限定されることになります。
現状では、建設業やIT業の支払いサイトが長い傾向にあります。建物やITソフトを仕上げても検品に時間がかかるという事情なのですが、今後、この長い支払いサイトが変わってくるかもしれません。
支払いサイトの考え方
支払いサイトの長さについてどのように考えれば良いのでしょうか?こちらが売掛金を受け取るという意味での支払いサイトと、買掛金等を支払う意味での支払いサイトを分けて考えます。
回収サイトはできるだけ短く
売掛先から売掛金を回収するサイトについては、可能な限り短いほうが良いです。できればサイト30日以下にすべきです。
その理由は、回収サイトが長いと、回収する前に売掛金に突発的な事態が起きて、拐取できなくなってしまうリスクが生まれてしまうからです。
いくら優良な売掛先でも、災害や世界情勢の変化、コロナなど疫病は回避できません。そうしたリスクを避けるには、1日でも早く売掛金を回収することが必要です。
回収サイトが短ければ、黒字倒産のリスクも減らせます。本来は即時入金が望ましいわけで、支払いサイトが短い分には困ることはありません。
支払いサイトはできるだけ長く
逆に自社の買掛金の支払いなど、自社の出費が必要な支払いサイトについては、可能な限り長いほうが良いです。
買掛金の支払いに追われると、突発的な資金調達に対応できませんし、戦略的な設備投資も難しくなります。日々支払いに追われることなく、資金計画を立てるためには、支払いサイトが短いほうが良いのです。
もちろん、支払いサイト60日の契約をしていても、資金に余裕ができたため、30日で支払う分にはまったく問題ありません。むしろ、買掛先は「支払いを早めてくれるのは誠意がある」とプラス評価になるかもしれません。
支払いサイトを短くする方法
支払いサイトを短くする方法、あるいは変更する方法にはどのようなものがあるのでしょうか?いくつか挙げます。
売掛先に丁寧にお願いする
まずは売掛先に支払いサイトを短くしてもらうように丁寧にお願いします。相手がOKすれば契約内容が変わり、合法的に支払いサイトを短くできます。
その際には「資金繰りが厳しいから」ということをなるべく伝えずに、何らかの交換条件を提示できるといいです。
「単価を下げる」というのが条件としては良いのですが、そうなると売上が減るので、よく理由を考えてください。
掛売から現金取引に変える
掛売からその場での現金売買に変えられれば、支払いサイトを気にしなくて済みます。しかし売掛先の社内会計規定などもあるため、すぐにはできないかもしれません。
まず、数割でも現金取引に変えられないかなど部分的な提案をしてみましょう。
手形割引をする
手形取引をしている場合、期日前に銀行に買い取ってもらう「手形割引」の制度があります。
指定期日よりも前に代金を現金化できるため、支払いサイトが短縮できます。割引手数料は引かれるので全額現金化とは行きませんが、支払いサイトを短縮しながら早期資金化を実現できるのでおすすめです。ただし、手形取立のみできる方法です。
手形法によって細かいところまで規定されているので安心して手形割引できます。
ファクタリングする
手形取引ではなく、請求書を出して入金を待っている場合、ファクタリングという売掛債権の売却方法があります。
支払いサイト到来前の売掛金について、ファクタリング会社に買い取ってもらいます。6月30日締め8月31日払い、支払いサイト60日の売掛債権を7月20日にファクタリング会社に売却して早期資金化できます。
手数料分本来の金額よりも割り引かれますが、それでも支払いサイトを待たずに現金を手に入れられるのでキャッシュフローが改善します。手形割引と違い民法が適用され、当事者間の合意が有効になります。
まとめ:支払いサイトの見直しで資金繰りを改善しよう
支払いサイトの見直しによって、自社の資金繰り、キャッシュフローに余裕ができます。また、黒字倒産などのリスクを減らせます。
できるだけ、自社が売掛金を受け取るサイトは短く、買掛金の支払いサイトは長くして、手持ち資金に余裕ができるようにしてください。
融資を受けたり新株を発行したりしなくても、支払いサイトの見直しで資金繰り、キャッシュフローが改善することがあります。
いたずらに、負債を増やすのではなく、それ以外の方法で経営資源に余裕を持たせられます。そのためにぜひ自社の支払いサイトについてチェックをお願いいたします。
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