ファクタリングの仕訳はどうする?会計処理方法やオフバランス化まで解説
事業活動する場合、お金の入出金について、仕訳して複式簿記をすることが求められます。おそらく、単式簿記を行っている方は少なくとも、会計ソフトなどで複式簿記を導入しているでしょう。
個人事業主の方は青色申告特別控除55万円のため、法人の方は顧問税理士の指示で企業会計の基本として複式簿記を導入しているはずです。
今回は複式簿記に不可欠な仕訳を取り上げます。ファクタリングをする場合、どのように仕訳をするのか、その原則を学んでください。
仕訳とは
まず仕訳とはどのようなものなのか、その概略を覚えておきましょう。
借方と貸方
複式簿記で記帳する場合、借方と貸方に分けて記載します。これを仕訳といいます。借方が右、貸方が左です。借方の「り」、貸方の「し」を見ていただくと、左にはねる「り」が借方、右にはねる「し」が貸方で覚えやすいです。
借方と貸方の金額は一致します。それぞれ資産や負債の変動を表します。
借方 | 貸方 | |
---|---|---|
資産 | 資産の増加 | 資産の減少 |
負債 | 負債の減少 | 負債の増加 |
純資産(資本) | 純資産の減少 | 純資産の増加 |
費用 | 費用の増加 | 費用の減少 |
収益 | 収益の減少 | 収益の増加 |
発生主義と現金主義
仕訳、会計のやり方として発生主義と現金主義があります。発生主義は支出・収入の発生が確定した時点で仕訳、記帳し、現金主義は実際に現金の入出金があった時点で仕訳、記帳します。
例えば、5月31日締め翌6月30日払いの売掛金の場合、発生主義では5月31日に売上を記帳し、6月30日に入金が口座にあった旨記帳しますが、現金主義の場合は6月30日、実際に入金があった時点のみ記帳します。つまり発生主義の方が手間はかかります。
一般的な企業会計の場合、発生主義が採用されています。現金主義は個人の商店などで一部採用されているのみで、原則発生主義になります。現金主義で記帳、仕訳していると税務調査時などに指摘される可能性があります。
ファクタリング利用時の仕訳
ではファクタリングの仕訳はどのように行えばよいのでしょうか?具体例も交えながら解説していきます。
保証型ファクタリングでの仕訳
まず保証ファクタリングの仕訳について解説します。保証ファクタリングは、保険のようにファクタリング手数料を支払い、万が一売掛先が倒産や不渡りを起こして回収不能になった場合にファクタリング会社から売掛先が支払われます。リスクヘッジの手段として用いられる手法です。
ファクタリング契約時
ファクタリング契約時は特に資金の移動はないので、仕訳は発生しません。
売掛金が無事入金された場合
売掛金が予定通り入金された場合は、手数料を保険料代わりに支払って仕訳終了です。以下のようになります(売掛金200万円、手数料20,000円の場合)。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
支払手数料 | 20,000円 | 普通預金 | 20,000円 |
売掛金が回収不能になった場合
売掛先にトラブルがあり、貸し倒れとなってしまい、リスクヘッジのため保証ファクタリングが実行された場合、このような仕訳になります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒損失 | 2,000,000円 | 売掛金 | 2,000,000円 |
普通預金 | 2,000,000円 | 雑収入 | 2,000,000円 |
売掛金は貸し倒れとなるため、貸倒損失で相殺され、その後、ファクタリング代金が雑収入として計上されます。通常の売上ではないため雑収入になりますが、リスクヘッジが達成されます。
買取型ファクタリングでの仕訳
続いて買取型ファクタリング、つまり一般的なイメージのファクタリングで、売掛金入金日前に資金調達が必要になり、売掛債権をファクタリング会社に買取ってもらったケースです。
5月31日売掛金発生(締め日)、6月30日本来の売掛金入金日、6月14日ファクタリング契約、6月15日ファクタリングで売却入金、売掛金200万円、手数料15万円で考えます。
売掛金発生時(5月31日)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
売掛金 | 2,000,000円 | 売上 | 2,000,000円 |
ここで売掛金が発生し、買取可能な売掛債権になります。
ファクタリング契約時(6月14日)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
未収入金 | 2,000,000円 | 売掛金 | 2,000,000円 |
ファクタリング契約することで、売掛金が消え(ファクタリング会社に譲渡)、まだ買取料金が入金していない「未収入金」になります。
ファクタリング会社からの入金時(6月15日)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
普通預金 | 1,850,000円 | 未収入金 | 2,000,000円 |
売上債権売却損 | 150,000円 |
未収入金が消え、実際の買取額185万円と手数料を仕訳します。手数料は「売上債権売却損」勘定とします。
取引先からの入金時(6月30日)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
普通預金 | 2,000,000円 | 預り金 | 2,000,000円 |
本来の売掛金期日が到来しました。自分のお金ではないので「預り金」勘定になります。
ファクタリング会社への返金時(7月1日)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
預り金 | 2,000,000円 | 普通預金 | 2,000,000円 |
これで預り金(回収した売掛金)はファクタリング会社に返済されました。
契約と入金が同時の場合(6月14日に契約と入金)
契約したその日に入金があった場合、このような仕訳になります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
普通預金 | 1,850,000円 | 売掛金 | 2,000,000円 |
売上債権売却損 | 150,000円 |
未収入金はなく、即時入金になるので、売掛金勘定と預金、売上債権売却損を仕訳します。未収入金の仕訳が不要になります。
ファクタリング利用時の仕訳の注意点
ファクタリングの仕訳をする際の注意点を挙げます。
ファクタリングに消費税はかからない
ファクタリングは財やサービスの売買ではなく、金融債権の譲渡になるので、「非課税取引」になります。記帳の際にも「非課税」を選択して会計ソフトに入力します。
非課税なので、手数料も売掛金額で計算します。つまり、売掛金100万円、手数料率10%のファクタリングの場合、手数料は100万円×10%=10万円になります。「買取価格90万円、手数料10万円」の契約になります。
もし、売掛金100万円に消費税10%を上乗せし、11万円の手数料を請求してくるファクタリング会社があれば、これはブラックな会社で違法な契約、取引になります。
ファクタリング手数料は「売掛債権売却損」
ファクタリングは本来満額入ってくる売掛金が、手数料を支払うことで、予定よりも「損が発生した」ことになるため、その手数料は「売掛債権売却損」として仕訳することが原則になります。
「売掛債権売却損」以外の勘定科目での仕訳
ファクタリング手数料については、勘定科目「売掛債権売却損」を使うのが原則ですが、絶対的なものではなく、「雑損失」や「支払い手数料」などにしても構いません。要は本来受け取る売掛金から何らかのマイナスがあり、全額入金されないことを記帳するのが大切です。
なお、3社間ファクタリングの一部、ファクタリングというよりも売掛金を担保にした貸付に近いケースでは「借入金」項目を使うこともあるようです。
契約から入金までに会計期間をまたぐ場合
ファクタリング契約時から実際に現金入金(売掛金回収日)までに決算期末をまたぐ場合、発生主義ですので、「売上」は計上されており、その売上に対して税金がかかります。
決算5月31日、同日ファクタリング契約、ファクタリングで現金入金6月3日の場合、5月末時点の「売上」に法人税等がかかるので注意してください。
ファクタリング手数料は経費・損金として処理できる
ファクタリング手数料は経費、損金になります。借入の際の「利子割引料」などと同じように経費にできます。
ファクタリング利用によるオフバランス化
ファクタリングは資金調達や貸し倒れリスク低減以外にも副次的な効果が期待できます。特に重要なのはファクタリングによって「オフバランス化」が実現できることです。
ファクタリングによって売掛債権を即現金化できます。債権を「キャッシュフロー」に換えることができ、不良債権化のリスクがない、流動資産の「現金」勘定に変換できます。
この結果金融機関等からの評価もプラスになります。スリムで効率的な経営を行っているという評価になります。このキャッシュフローが多い経営を「オフバランス化」と言います。
ROA(総資産利益率)が上がる
ROAとは、「総資産利益率」と訳され、会社の総資産を利用してどれだけの利益を上げられたかを示す数値になります。高い方が効率的な経営ができて企業評価が上がります。
【ROA(%)=当期純利益÷総資産×100】
同じ100万円を調達するのでも借入の場合とファクタリングの売位でROAが変化します。
利益100万円 総資産 1000万円の会社 の100万円調達をケースにします |
借入(100万円融資を受けた場合) 総資産は減りません。借入の分増えます。ROA=100÷1100×100=9.1% |
ファクタリングの場合(ファクタリング手数料20万円) 手数料で総資産が減ります。ROA=100÷980×100=10..2% |
同じ100万円の資金調達でも、ファクタリングのほうがROAを上げることができます。もちろん、融資の金利とファクタリング手数料の比較も重要なので、絶対ファクタリングがいいということではありません(一般的にファクタリング手数料を年利換算すると、利息制限法の上限突破することも多いです)。
自己資本比率も高まる
上記と同じように借入とファクタリングを比較すると、借入金は「他人資本」なので、総資産↑、他人資本↑となる中で、自己資本比率は低下します。
しかし、ファクタリングの場合、現金化することでキャッシュフロー=自己資本が増えるので、自己資本比率も高くなります。
自己資本比率は会社の健全度を測る重要な指標であり、自己資本比率が高いと何かあっても資金をすぐに充当でき、危機回避の可能性が高くなります。
融資を受ける際も自己資本比率は重要な指標であり、ファクタリングで意識的に売掛金をキャッシュフローに変換できます。
利益は減少する
本来の売上である売掛金から手数料を支払うので、利益が圧縮されます。ファクタリング手数料は経費計上できるので、その分課税所得も減ります。これによって、利益や所得を減らせます。税金面や補助金受給の際のテクニックに使えます。
まとめ:ファクタリングは仕訳の方法を理解して、有効に利用しよう!
ファクタリングは必ずしも急な資金調達だけの手法でないことがわかりました。適切な仕訳、会計処理によって、キャッシュフローを増やし、企業体質を強くすることも可能です。
そのためにじゃ仕訳の方法をしっかり理解し、税務調査などにも万全に対応できるようにし、結果的に自社の財務諸表やキャッシュフローを好転させるようにできれば、単なる資金調達以上の効果が期待できます。
ファクタリングと融資の違いなども仕訳から学べます。しっかり理解してください。
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