一括ファクタリングとは?仕組み・メリットやでんさいとの違いを解説
ファクタリングは、売掛債権の期日までに資金が間に合わない、調達できない企業が、当座をしのぐため、その債権について手数料を引いて買い取ってもらうことで現金化するために用いられる方法、というイメージが強いのですが、債権者側(支払いを受ける側)だけではなく、債務者(支払う側)主導で行われることがあります。
それが今回お話しする「一括ファクタリング」という手法です。ファクタリングは手形に代わる手段として、支払い側にとってもメリットがあることをお示しします。
一括ファクタリングとは
「一括ファクタリング」とは従来の手形に代わり、債務者側(売掛債権を期日までに支払う側)が、余分な事務作業を簡略化し、支払日を伸ばすことができる手法です。
<事例>本記事では下記の取引をケーススタディにして解説します A社:債権者、BtoBであるものをB社に100万円で掛け売りする B社:債務者、A社のものを100万円で掛け買いする C社:A社とB社が取引している銀行 |
例えば
A社がB社にものを売り、3月中の売上が100万円だったとします。その場合、手形をB社が発行すると
5月20日にB社はA社に100万円支払う B社 発行日3月31日 |
このような手形を発行します。
この手形はA社、B社と取引のある銀行C社の保障の下で発行できるものであり、これによりB社は3月31日から5月19日までA社への支払いが猶予されていました。
しかし、この手形を発行する際には、
・手形発行のための事務作業
・手形の発行管理
・手形発行にかかる印紙税(印紙の購入、貼付)
など手間やコストがかかります。手形の発行については「手形法」という法律で厳格に規定されており、これを逸脱することはできません。手形法は昔の法律であり、時代に合わないところも多いのです。
そこで、ファクタリングの手法を使って、ファクタリングのシステムに登録した売掛債権は銀行がいついでも買い取る、という仕組みを構築しました。これにより、従来手形が不渡りになるような
リスクがある場合(B社が支払いできなそうなリスクが生じた場合)も勘案し、B社がA社に支払う債権(この場合は5月20日に100万円支払う)を銀行がファクタリングの手法で買い取り、A社への支払いを保証するという「一括ファクタリング」を生み出しました。
これにより、従来の手形と同じような形で、銀行が、B社のA社への支払いを保証することができます。ファクタリングは手形と違い、法規制が厳しくないので、柔軟な運用が可能なのです。
一括ファクタリングの仕組み
一括ファクタリングは、上の事例で考えると、ファクタリングを利用する会社(債権者:A社)、売掛先(債務者:B社)銀行(ファクタリング会社:C社)で行う「3社間ファクタリング」の1つです。
3社間ファクタリングですので、売掛先であるB社も含めて、当事者A~Cすべてファクタリングを行うことを知り、同意したうえで実施します。
3月のA社のB社への売上が100万円、5月20日にB社がA社に100万円支払う |
という上の事例をもとに一括ファクタリングの仕組み、流れを説明します。
1.C社が運営する一括ファクタリングシステムへのB社の登録・契約(審査あり)
2.A社がB社へ100万円の商品を売る
3.売掛金100万円が発生する
4.A社がC社に売掛債権(5月20日に100万円を受け取る権利)を譲渡する(売る)
5.B社が売掛債権の譲渡を承諾する
6.期日(5月20日)か期日前にC社がA社に売掛債権相当の代金を支払う
7.期日(5月20日)に売掛債権相当額(100万円)をB社がC社に支払う
実際は、期日(5月20日)が来て、B社がA社に100万円支払うのと変わりませんが、ファクタリングの仕組みを使って、C社がA社の売掛債権を買い取ることで、C社がA社に買取代金(=売掛金)を支払い、同時にB社から売掛金を回収するという仕組みを構築しています。
こうすることで、実質手形と同じようにC社(銀行)の保証を受けながら、安定した売掛債権回収を可能にします。しかも手形法が適用されないので、コストも手間もかからないのです。
一括ファクタリングのメリット
一括ファクタリングは手形に代わる新しい売掛債権保証の仕組みですが、それが導入されるということは大きなメリットがあるからにほかなりません。一括ファクタリングのメリットについて考えます。
なお、下記の支払い企業はB社、納入企業はA社に置き換えていただくとわかりやすいです。
支払企業のメリット
まず、支払い企業(B社)のメリットを考えます。
手形発行の必要がない
従来の手形による売掛金回収は、手形法の規定に縛られた複雑でコストがかかるものでした。様式を満たした手形を作成し、そこに印紙を貼付します。
手形の発行・管理の作業量が非常に大きな負担になり、事務作業で本業が圧迫されます。また、印紙代は自腹であるため、経費として自社の経営を圧迫する要因になります。印紙代の高額な費用負担は馬鹿にできないのです。
しかし、一括ファクタリングを導入することで、印紙は不要になり、また手形法に則った細かい手続きや管理も不要になり、時間的経済的なコストをカットできます。
信用力が高まる
一括ファクタリングは手形以上に銀行の審査が厳しく、このシステムを導入できる企業は限られます。つまり、一括ファクタリングを使える債務者は、そもそも優良企業であり、不渡りなどのリスクが低いのです。
一括ファクタリングを活用できる=大手金融機関の審査に通り、経営が優良で問題なし、と判断されていて、それだけで信用度があるのです。
納入企業のメリット
一方、モノやサービスを売った側(A社)にとってもメリットがあります。
売掛債権の資金化
従来型のファクタリングのメリットと同様に、売掛債権を確実に現金化できます。一括ファクタリングを導入できる時点でB社の倒産リスクは低いのですが、それでも0%にはなりません。
ファクタリングでC社に売掛債権を買い取ってもらえるので、確実に現金化、資金化することができます。
手形管理事務の負担がなくなる
手形の場合、手形法の規定に沿った手形管理事務が必要になります。売掛金を受け取る側(手形を振り出された側:A社)は、支払日まで手形を適切に管理しなければなりません。
手形を失くすると、売掛金を受け取れなくなり可能性があります。また、手形を現金化する際には、金融機関へ行き、手形を呈示しなければなりません。
呈示期間は支払期日を含めた3営業日以内でなければならず、金融機関は手形の呈示を受けた後、債務者(B社)の当座預金を確認し、支払うだけの売掛金があるか確認します。そのチェックに時間がかかります。
ファクタリングは手形法のこのようなややこしい規制の対象外なので、事務負担が軽減されます。よって、迅速に簡便な手続きで現金化が可能です。
一括ファクタリングのデメリット
一方で一括ファクタリングを行うでデメリットも理解しておきましょう。
支払い企業のデメリット
一括ファクタリング最大のデメリットは、支払いまでの期間(サイト)が手形と比べて短いことです。
手形の際とは下請法対象取引ならば最大120日、そうでない取引は180日以上先のものも合法です。4カ月先払い、半年先払いが認められています。
一方、一括ファクタリングの場合、支払いまでのサイトは最大60日になります。事例のケースはサイト50日なので手形でも一括ファクタリングでも変わりませんが、もし、手形取引が3末締め6月末払いの場合、このサイトでは一括ファクタリングができないことになります。
支払い企業の資金繰りの関係で、サイトを長くしたい場合、一括ファクタリングは不利になります。
納入企業のデメリット
納品側もデメリットがあります。まず、手形決済ではなくファクタリング=債権買取になりますので、買取手数料が引かれます。3社間ファクタリングなので、手数料率は1%~3%ですが、事例で言うと、100万円全額受け取ることができず、98万円や99万円といった金額になります。
手形期日より早めに現金を手にすることもできますが、全額ではなく、これなら手形のままの方がいいかもしれません。
なお、一括ファクタリングの導入可否は売掛先(B社)の意向に左右されます。納入企業(債権者)だけの意思では導入できません。一方、3社間ファクタリングですので、債権者(A社)の同意も必要です。B社の一方的な意向だけでは導入できないこともご理解ください。
一括ファクタリングとでんさいの違い
一括ファクタリングと似た制度に「でんさい」(電子記録債権)というシステムがあります。両者はともに手形という形をとらずに、売掛金の回収を保証する制度です。売掛先も、手形の面倒な手続きを排して、一定期間のサイトを持った支払いを可能にできます。
一括ファクタリングとでんさいの違いについて、表にまとめました。
一括ファクタリング | でんさい | |
---|---|---|
契約手続き | 契約書さえあればよい | でんさいネット加盟が必須 |
紙ベースの取引 | 契約書が必要。紛失リスクもある | なし。すべてオンラインで完結 |
回収不能リスク | 償還請求権がない「ノンリコース」の契約ならなし | あり。償還請求権が付く |
現金化までの期間 | 最短でも即日~数日 | 最短30分でもケースによって可能 |
信用情報機関の介入 | なし。金融ブラック(返済事故、自己破産)の人でも利用可能 | 信用情報機関への紹介はないが、銀行間ネットワークに過去の情報があり検索される可能性はあり |
売掛先への譲渡の事実 | 知られる | 知られる |
債権の分割 | 不可能 | 可能 |
リスク
一括ファクタリングでは、支払い企業(売掛先:B社)からの代金不渡が発生した場合、受取り企業(債権者:A社)に支払い義務はありません。もちろん、期日前に債権買取が終わっているならば、A社は代金(売掛金-手数料)を受け取ることができます。
一方でんさいでは、その場合には受け取り企業が支払いを肩代わりする必要があります。でんさいを譲渡した後に支払企業が倒産や不渡りを起こした場合、譲渡した企業が「手形保証人」と同様の義務、「償還請求権」を負うことになります。
契約手続き
上の表にもあるように、でんさいを使う際には「でんさいネット」というシステムに登録する必要があります。
一方で、一括ファクタリングではでんさいネットへの加入は不要で、当事者間(債権者、債務者、ファクタリング業者(銀行)で柔軟な契約を結ぶことができます。
総じて、でんさいよりも一括ファクタリングの方が使いやすく、リスクも低い傾向にあります。
まとめ:一括ファクタリングはでんさいへ
一括ファクタリングとでんさいは似て非なるものです。どちらも、手形のようなわずらわしさから解放されますが、償還請求権の有無などの違いもあります。
迅速に現金化したいならばでんさい、柔軟な契約で回収漏れリスクを回避したいならば一括ファクタリングです。
ファクタリングについてはまだ法整備が追い付いていない部分があるため、今後の流れを読みながら進める必要があります。細かく規定されないということは、既存法の一般条項ででんさい以上に広い網がかかる判例が出るかもしれません。
一括ファクタリングもでんさいも、手形に代わって利用する場合は、しっかり理解し、専門家などにご相談ください。
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